中国特許法第3回改正後の意匠特許に関する規定及び日本意匠法との比較
中科専利商標代理有限責任公司
汪恵民、大黒武敏、張立岩
中国特許法は1985年4月1日施行以来、1992年9月4日と2000年8月25日に2度の改正を行い、2005年の初めから第3回目の特許法改正準備が始まりました。2006年12月27日中国知識産権局は「中華人民共和国特許法(修改草案送審稿)」を起草し、国務院へ報告し審査批准を請願しました。この送審稿を基礎にし、何度も検討修正を繰り返して2008年6月27日に「中華人民共和国特許法修改案(草案)」が作成されました。この草案について国務院常務会議で検討採択し、中国人大網(www.npc.gov.cn)で公開し、社会に向けて意見を収集しました。4年間の努力を経て、最終的に全国人民代表大会常務委員会が2008年12月27日に「中華人民共和国特許法」を改正することを可決しました。この第3回目の改正特許法(以下、「改正法」と呼ぶ)は改正前の特許法(以下、「現行法」と呼ぶ)と比べて、登録要件、特許権保護及び国際条約の規定などが大きく改正されました。本文章は改正法における意匠に関する改正部分を紹介し、改正法における意匠に関する規定を日本意匠法と比較しました。両法の規定の相違が明らかになると思います。日本からの中国への意匠出願をより有効的なものとすることに役に立ち、有益なものになれば幸いです。
一、改正法における意匠(外観設計)に関係する改正点
1.意匠登録要件(第23条)
現行法では、意匠特許権の付与条件は「特許権を付与する意匠は、出願日前に国内外の出版物に公に発表又は国内で公に実施された意匠と同一及び類似するものであってはならず、かつ他人が先に取得した合法的な権利と抵触してはならない。」と規定されている。
改正法の第23条では「特許権を付与する意匠は、従来の意匠に属してはならない。またいかなる単位又は個人が、同一の意匠について出願日前に国務院専利行政部門に出願したことがなく、かつ出願日以後に公告された特許書類に記載していないものでなければならない」と改正された。
また、改正法では、さらに、以下のように規定する。
「特許権を付与する意匠は、従来の意匠、又は従来の意匠の特徴の組合せと比べて明らかな区別を有しなければならない。」
「特許権を付与する意匠は、他人の出願日前に既に取得した合法的権利と抵触してはならない。」
「この法律でいう従来の意匠とは、出願日前に国内外において公衆に知られている意匠を指す。」
以上、第23条に関し、改正法と現行法とを比べると以下の相違点が列挙される:
(1)新規性要件としての絶対新規性
中国特許法では、特許される意匠に対して新規性のみが要求されてきたが、その新規性喪失の基準は、実施に関しては中国国内に制限されていた(相対的新規性)。改正法では従来の意匠に属しないこと(国内外において公衆に知られていないことを指す)と規定したので、刊行物記載だけでなく、公の実施についても国内外を区別せず、絶対新規性を要求することになった。
(2) 抵触出願に属しない
現行法では特許される意匠に対して抵触出願が存在するか否かを判断しないが、改正法では、出願人がいかなる単位又は個人であるかを問わず、出願日前の中国特許庁に出願した意匠出願であって、かつその意匠出願の出願日以後に公告された出願書類に同一の意匠が記載されていない要件を明記した。
現行法では抵触出願が存在するか否かを判断しないが、これは同一意匠に対して二重授権できることを意味するものではない。即ち、現行法第9条「二以上の出願人が同一の発明創造について個別に特許出願した場合、特許権は最先の出願人に付与される。」および現行法実施細則第13条「同一の発明創造には一つの特許のみが付与される。」で二重授権を避けることを明記しているからである。
改正法では、抵触出願が存在するか否かを意匠の特許性の条件として明確にし、かつ、同一人にも例外を認めず、いかなる単位又は個人の提出したものであってもこれを適用することとした(いわば先行出願の拡大にあたる)。
(3)「明らかな区別を有する」という条件の追加
改正法では、特許権を付与する意匠が、従来の意匠と比べ、又は従来の意匠の組合せと比べて明らかな区別を有しなければならないと規定する。
しかしながら、「従来の意匠に属しない」とは何か、または「明らかな区別を有する」とは何か、については、改正法には注釈がない。
そこで、現行法、現行の実施細則、現行の審査指南を背景に、改正法及び改正後実施条例(草案)を検討すると、次のように解釈することができると考える。
(a) 対比する対象は、従来の意匠又は従来の意匠の特徴の組み合わせである。
(b) 従来の意匠とは、出願日前に国内外において公衆に知られている意匠である。
(c) 「明らかな区別」とは、前項で使用された「同一の意匠」とは異なる用語として使用されているから、同一を超えた範囲、すなわち、類似する範囲を前提として、これを超えるものと解釈できる。
(d) そうであれば、「明らかな区別を有する」とは類似しない意匠をいうと解釈できる。
しかしながら、「明らかな区別」を有する意匠か、有しない意匠かについては、これを理解する概念として「類似しないか、するか」を用いたとしても、類似の範囲自体が幅のあるものであるから、今後の具体的事件における判断で定まっていくものと思われる。
改正法第23条に規定した意匠特許権の付与条件をまとめれば、下記の通りである。
①公衆に知られている意匠と同一ではないこと(絶対新規性)(第1項前部、第4項)
②抵触出願がないこと(先行出願の拡大)(第1項後部)
③公衆に知られている意匠又はそれらの意匠の特徴の組み合わせと類似ではないこと(第2項)
④他人の先に取得した合法的権利と抵触してはならないこと(第3項)
要するに、意匠登録要件について、改正法は現行法に比べ、主な改善点として、上述の①新規性要件の基準を厳しくした点と②抵触出願に関するものにとどまる。
ここで、注目されるのは、③の「又はそれらの意匠の特徴の組み合わせ」であり、この規定が実務上、どのように活用されるかによるが、条文の規定のみ対比すれば、日本意匠法の第3条第2項の厳しさには及ばない。その点では、実質的な改善がないといえよう。
しかしながら、改正法が意匠登録要件に対して上述の3点の改正を行ったことは、意匠出願人が出願前に考察を深める効果を生じ、ひいては、意匠出願内容の充実が期待できることになる。
2.意匠不特許事由の拡大( 改正法の第25条第6号の追加)
改正法第25条では、「平面印刷物の図案、色彩又は二者の結合によって作り出された主に標識の作用を有するデザイン」を意匠不特許事由として規定した。
中国では意匠出願の出願件数が2008年に31万件を超えた。その数の中には、平面印刷物の意匠が多く含まれていたという。中国の意匠出願の内容を充実させることを目的とし、改正法では平面印刷物、特に、主として標識の作用を有するデザインには特許権を付与しないことを規定した。また、このような意匠特許は「他人の先に取得した合法的権利と抵触」し易いため、改正法にこの制限を加えた(改正法第23条)。これによって、意匠出願の内容が充実するだけではなく、出願に係る意匠特許が他人の先に取得した合法的権利と抵触することを減らすことも企図している。
3.意匠出願の必要書類(改正法第27条)
(1) 簡単な説明等
現行法では、意匠特許出願をするに必要な書類は、①願書、②当該意匠の図面又は写真であるが、改正法では第27条第1項で③当該意匠の簡単な説明が追加された。
(2)特許保護を求める製品の意匠を明瞭に示す
現行法の実施細則第27条第3項に規定していた内容を、改正法では第27条第2項に、新たに追加した。すなわち、出願人が提出する図面又は写真に対する要求(特許保護を求める製品の意匠を明瞭に示さなければならない。)を明記した。
したがって、現行法と改正法を比較すると、改正後は、当該意匠の簡単な説明を意匠の特許出願における必要な書類として出願の際に同時に提出しなければならない。
現行法においては、意匠の特許出願の際に意匠の簡単な説明を提出しなくてもよいのだが、改正法では意匠の簡単な説明を必要な出願書類とした(出願人の義務)ことにより、改正法第27条の規定が意匠特許の保護強化に対する重要な役割を果すことになった。
4.単一性具備条件の拡大(改正法第31条)
現行法の第31条第2項では、「一件の意匠特許出願は、一つの物品に使われる一つの意匠に限らなければならない。ただし同一区分で且つ一組として販売又は使用される物品の二つ以上の意匠は、一件として出願することができる。」と規定する。すなわち、単一性条件の「同一区分で且つ一組として販売又は使用される物品の二つ以上の意匠」を満たす場合以外には、複数の意匠を一件として出願することができない。
改正法では、上述の規定に対して補充をし、「同一製品の二つ以上の類似意匠」も一件の出願で出願することができることを規定した。改正法第31条第2項が単一性の条件を拡大することになったので、「同一製品の二つ以上の類似意匠は一件の出願として出願する」ことができる。これは出願人に対してかなり便利なことである。
意匠特許出願に関し、二つの意匠が「類似」であるかどうかについての判断は人為的な要素が多いともいえるので、二つの意匠が「類似」であるか「類似」でないかについて確定し難い。現行法に基づけば、二つの意匠をそれぞれ出願するか(費用はかかるが、保護は確実となる)、または、どちらか一つを選択して出願するか(費用はおさえられるが、保護の確実性が保証されない)のいずれかを選ばなければならない。改正法の単一性に対する改正によれば、法改正後は、出願人は類似する意匠を一件の出願として提出することができることとなった。
5.意匠特許権利保護の強化(改正法第59条)
現行法第56条第2項では、「意匠特許権の保護範囲は、図面又は写真に示されたその意匠特許製品を基準とする。」と規定する。つまり、意匠特許権の保護は意匠特許製品の図面又は写真に限られ、その他の記載が参酌されるか否か明らかでない。そのため、意匠特許権が侵害された場合、被疑侵害製品の意匠が意匠特許の図面又は写真に示された意匠と同一又は類似かどうかの判断は困難な場合が多かった。
そこで、改正法第59条第2項において、意匠特許の保護範囲に関し、「簡単な説明は、図面又は写真に示されたその製品の意匠特許に対する解釈に用いることができる。」と規定した。
これによって、法改正後は、意匠特許権侵害があった場合、意匠特許の図面又は写真と比較し、さらに、意匠の簡単な説明に基づいて意匠特許製品を明確にし、正確な結論を得ることができるようになる。意匠の簡単な説明を有効利用することにより、権利付与された意匠特許権の保護に対して、保護を強化する役割を果たすことができる。
6.販売の申し出権利の追加(改正法第11条)
現行法第11条第2項は、「意匠特許権が付与された後、いかなる単位又は個人も特許権者の許諾を得ずに、その特許を実施してはならない。すなわち生産経営を目的に、その意匠特許製品を製造、販売、輸入することができない。」と規定している。改正法では、「販売の申し出」を追加した。すなわち「生産経営を目的とした当該意匠の特許製品の製造、販売の申出、販売、輸入であってはならない。」と改正した。
改正法が意匠特許権者に販売の申出の権利を与えることによって、意匠特許権者は、他人が、当該特許権者の許諾を得ずに、広告に掲載する、又はデパートの商品棚や、展示会の会場において展示するなどの方式で、当該特許製品の販売の申し出を行うことを防止することができる。
7.意匠特許権の侵害に対しても評価報告書を要求(改正法第61条第2項)
現行法第57条第2項では、「特許権侵害紛争が実用新案特許にかかる場合、人民法院又は特許業務管理部門は、特許権者に国務院専利行政部門が作成したサーチレポートの提出を要求することができる。」と規定する。このような内容は、意匠に関しては規定がなかった。
改正法第61条第2項において、「特許権侵害紛争が実用新案特許又は意匠特許にかかわる場合、人民法院又は特許業務管理部門は、特許権者又は利害関係人に対して、国務院特許行政部門がかかる実用新案特許又は意匠特許に対して検索し、分析及び評価を行った上、作成した特許権評価報告書の提出を要求し、それを以って特許権侵害紛争を審理し、処分するための証拠とすることができる。」と改正した。
(1)意匠特許権侵害に関する紛争の場合も、人民法院又は特許業務管理部門は、特許権者に対して特許権評価報告書(サーチレポートではない)の提出を要求することができる。;
(2)特許権評価報告書は特許権侵害紛争の審理を行い、これを処分するための証拠とすることができる。
上述のことにより分かるように:
① 意匠特許権評価報告書の提出が意匠特許権者の義務ではないが、特許権評価報告書は特許権侵害紛争を審理、処分するための証拠になるため、実際には特許権者は特許権評価報告書の提出を避けられないことになる。
② 現行法第57条第2項は「サーチレポート」に言及しているが、改正法第61条第2項に規定されたのは「国務院特許行政部門がかかる実用新案特許又は意匠特許に対して検索し、分析及び評価を行った上、作成した特許権評価報告書」であり、明らかに特許権評価報告書の採用信頼度がサーチレポートより高くなり、この特許権評価報告書により、無審査登録された意匠特許権が特許法における権利付与条件を満たすかどうかを正確に評価できることになる。
二、改正法が意匠特許に及ぼす影響
1.意匠特許される意匠の内容の充実
(1) 改正法に基づけば、主に標識の作用を有する平面印刷物に対する意匠には権利が付与されないので、平面印刷物意匠出願を大幅に減らすことができる。同時に、意匠特許権が他人の合法的権利(主に商標を指す)と抵触することを効果的に避けられる。
(2) 特許権付与の条件について、絶対新規性を採用し、抵触出願を排除することによって、意匠特許される意匠の内容を充実させることができる。
至極当然な話ではあるが、中国特許法では、意匠特許出願に対する実体審査は行われてなく、方式審査制度を採用している段階であるので、意匠特許出願が方式審査では、拒絶査定を受ける理由がない場合、意匠特許権が付与される。この状況にあっては、権利付与された意匠特許権が全て特許法の規定を満たすとは保証できない。しかし、無効審判を通じて特許法の規定を満たさない多くの意匠特許権が無効にされることとなる。
こうして、意匠特許権付与基準を引き上げることによって、意匠特許される内容の充実を一層を進めることもできる。
(3) 意匠特許権侵害に関わる紛争の際には、特許権者が「特許権評価報告書」の提出を要求することになるので、特許権付与条件を満たさない意匠特許権では、特許権者は侵害訴訟の応訴ができなくなる。
2.併願出願の有効利用(改正法第31条)
意匠特許付与条件は新規性を満たすことが必要である。一種類の良い意匠の創作をより効果的に保護するためには、一連の類似意匠出願をせざるを得ない。それに対して、改正法では「同一製品の二つ以上の類似意匠は、一件の出願として出願することができる。」と規定しているので、意匠出願の際に上述の単一性条件を満たす意匠を併願出願することができる。したがって、意匠出願人には一連の類似意匠を保護するにあたって有利な条件が与えられることになる。
3.意匠の簡単な説明に対する重視(改正法第27条)
改正法では「簡単な説明」を意匠出願の必要書類としているので、出願人は出願するにあたって当該簡単な説明を願書と図面又は写真と一緒に提出することが要求されるが、当該簡単な説明が、意匠特許権の範囲を確定するときに図面又は写真で示している当該製品のデサインの解釈に用いられることから、簡単な説明によって、図面又は写真のみでは示すことができないものを表すことができるという利点も利用できることになる。
簡単な説明は、意匠製品の図面又は写真に対する説明又は限定になるので、当該簡単な説明が、意匠製品の色彩、特徴、用途、創作ポイントなどを更に明確することができると同時に、他方、その意匠特許権に対して限定要素にもなるので、保護範囲を縮小することになる可能性があることについて、出願人は注意すべきである。したがって、出願人は簡単な説明の書き方についてこれを重視し、十分に考慮して作成しなければならないことになろう。
4.意匠特許権保護の強化(改正法第59条、61条第2項)
簡単な説明を意匠出願の必要書類としていることによって、簡単な説明が図面又は写真で示している当該製品のデサインの解釈に用いられ、意匠特許権保護範囲の強化ができる。
また、改正法によって特許権者は販売の申出の権利を与えられるため、特許権者の権利は一層強化される。
三、中国の改正法と日本の意匠法との要点の比較
改正法によって、意匠特許に対する規定は先進国の意匠特許の規定に接近する。そこで、日本の意匠法と改正法を比べてみた。主な相違点は下記の通りである。
1.意匠の定義及び意匠権
中国の改正法は、現行法の実施細則第2条に規定される意匠の定義内容を改正法第2条第4項に補充した。そこでは「意匠とは、製品の形状、図案又はその組み合わせ、及び色彩と形状、図案の組み合わせによって出された美観に富み且つ工業上の応用に適した新しいデザインを指す。」と定義している。また、改正法第11条第2項では、意匠権に対して「意匠特許権が付与された後、いかなる単位又は個人も特許権者の許諾を得ずに、その特許を実施してはならない。即ち、生産経営を目的とした当該意匠の特許製品の製造、販売の申出、販売、輸入であってはならない。」としている
一方、日本の意匠法第2条第1項は、「この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。第8条を除き、以下同じ)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」と規定する。また、同条の第3項は、「この法律で意匠について「実施」とは、意匠に係る物品を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、輸出し若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする行為をいう。」と規定する。
意匠の定義と意匠権に対して中日両国の法律に存在する顕著な区別はないが、不特許事由を規定する中国改正法第25条で平面印刷物に関する意匠を特許から除外する規定を追加したことによって、平面的意匠については、中国での登録性は、厳しくなると思われる。
さらに、日本では部分意匠を認めるが、中国の改正法では部分意匠を認めない。この点も大きな相違である。
以上のような差異点及び、両国の法律の表現における多少の差異はあるが、意匠の定義と意匠権に対する実質的な内容について両国の法律は一致している。したがって、部分意匠を除けば、日本の意匠出願人又は意匠登録権者は日本の意匠法における意匠の定義と意匠権に対する規定になぞらえて、中国での意匠出願又は意匠権の取得について考慮をめぐらすことができることになる。
2.意匠登録要件
日本意匠法の第3条第1項では新規性に関わる意匠登録要件を規定している。同条の第2項に創作性に関わる意匠登録要件(容易に意匠の創作をすることができる意匠は登録しない)を規定している。上述の日本意匠法における意匠登録要件を中国の改正法の第23条と比べると、下記のように、両国の法律の相違が分かる。
(1) 中国特許法で従来技術に対する判断について出願日前(出願日を含めていない)が時間基準になっている。それに対して、日本意匠法では出願前(出願日を含む)が時間基準になっている。日本の意匠法の新規性判断時間基準が中国特許法の新規性判断時間基準より1日厳しくなっていることが明らかである。
(2) 日本意匠法の第3条第1項の1、2、3号、及び第3条の2は、それぞれ中国の改正法第23条第1項前半部、第2項及び第1項後半部と対応している。中日両国の法律の表現が全く同じではないが、実質的な内容が一致している。
(3) 日本意匠法の第3条第2項は創作性の要件を規定している。中国の改正法第23条にはそれに完璧に相応する規定はない。即ち、中国の改正法第23条に規定した意匠特許権を付与する要件の中には、容易に創作できるか否かという進歩性の考え方を背景にした観点を含めていない。中国の改正法(第23条)では、「従来意匠の特徴の組合わせと比べて明らかな区別を有するもの」までを明記したに留まる。
したがって、日本の意匠特許の出願人又は意匠登録権利者は、日本の意匠法における意匠登録に対する理解に基づき、中国への意匠出願が中国特許法の関連規定を満たすかどうかについて判断することができよう。
3.意匠特許の出願と審査
(1) 簡単な説明
中国の現行法(実施細則も含む)は、意匠特許の出願書類に対して、日本意匠法の意匠登録出願の規定と略同じである。
しかし、中国の改正法第27条は、意匠の簡単な説明を必要な出願書類とした。即ち、日本から中国へ意匠出願する際に、意匠の簡単な説明を必ず添付しなければならない。
(2)意匠の単一性
日本意匠法では、第7条において1意匠1出願の原則を規定し、第8条において組物の意匠出願を規定する。これらの規定は中国の改正法第31条の単一性の規定と呼応しているが、中国の改正法では、第31条第2項に「同一製品の二つ以上の類似意匠は一件の出願として出願することができる。」を追加した。したがって、中国の改正法の単一性に対する要求が日本意匠法におけるそれより緩くなった。
(3) 中国改正特許法では、複数の出願に含まれる単一性ある意匠が互いに類似する場合の規定である日本の関連意匠と対応する規定はないが、改正法第31条に基づけば、日本の出願人が日本の意匠法第10条に規定する関連意匠を、中国では一件の出願として出願することができる。特許法実施条例改正草案送審稿第36条改正特許法第31条第2項の規定に基づけば、同一製品にかかる複数件の類似する意匠について、一件の出願として出願する場合、当該製品のその他の意匠は、簡単な説明に指定された基本意匠と類似しなければならない。一件の意匠特許出願における類似する意匠が10件を超えてはならない。これは出願人にとって非常に有利であると考える。
(4) 中国特許法には、日本意匠法のような出願変更の規定がない。即ち、中国では、実用新案出願から意匠登録出願に変更することができない。
(5) 中国特許法には、日本意匠法のような秘密意匠の規定がない。即ち、中国では秘密意匠を出願することができない。
(6) 中国では部分意匠に権利を付与しないので、日本の出願人が日本国で提出した部分意匠登録出願を基礎出願としてパリ条約上の優先権を主張するときに、図面における破線(点線)は実線に訂正しなければならない。しかし、留意すべきことは、中国特許法では、部分意匠に権利を付与しないが、部分意匠特許として第1国で提出した出願に対して6ヶ月の優先権を主張して中国で意匠を出願することができる点である。
(7) 中国特許法は意匠特許出願に対して初歩的審査制度を採用している。拒絶査定理由がない場合、意匠特許権を付与する。したがって、無効審判請求があった場合又は、特許権評価報告書を作成する場合のみ権利付与された意匠特許に対して実体審査を行う。中国の初歩的審査制度とは異なり、日本意匠法は意匠登録出願に対して実体審査制度を採用している。
4.意匠権及び意匠権存続期間
(1) 日本意匠法に規定された意匠権の範囲は、願書及び図面、写真又は見本であり、願書の記載には、意匠に係る物品、意匠に係る物品の説明及び意匠の説明が含まれる。日本意匠法施行規則第6条2項には、特徴記載書について規定があり、同3項では、「登録意匠の範囲を定める場合においては、特徴記載書の記載を考慮してはならない。」と規定する。
それに対して、中国の改正法に規定された簡単な説明は、図面又は写真に示されたその製品の意匠特許に対する解釈に用いることができることを規定している。簡単な説明に記載せねばならない内容、記載できる内容について明確にならないうちは確かなことはいえないとしても、中国の改正法の意匠特許権の保護範囲は、日本意匠法に規定された意匠権の範囲より意匠それ自体の解説に関して、明確性が高くなる可能性はあるかもしれない。
(2) 中国で意匠特許権の有効期間は出願日から10年である。日本の意匠権の存続期間は設定登録日から20年である。意匠権利者保護の観点からは、欧州のOHIMが最長25年であることを考えれば、WTO基準を守っている中国ではあるが、改正法においても、未だ弱いとの批判を受けそうである。
5.意匠権の侵害紛争
中国の改正法の第11条に規定された意匠権の保護は、日本意匠法の第2条に規定された意匠についての「実施」行為と実質的に(中国改正法当該条文には、輸出という行為はきていされていない)一致していると著者は考える。したがって、中国で意匠権を取得した日本の権利者は日本意匠法の第2条を参照して自分の意匠権が侵害されたかどうかを判断することができよう。
しかし、日本と異なり、出願から登録までの間では、実体審査をしないので、意匠権利侵害訴訟前に、権利者が事前に特許庁へ特許権評価報告書を要求して、権利の安定性を確定し、かつ提訴の証拠とする(第23条第2項)ことに留意する必要がある。
以上、2009年10月1日から施行される中国特許法第3回改正法について、特に意匠(外観設計)に関する保護規定の改正点を、現行中国特許法、日本の意匠法と比較しつつ解説させていただきました。言葉足らずの箇所など、お気づきの点があれば、ご指摘いただきますようお願い申し上げます。