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第3回改正後の中国特許法に関する解説及び日本企業の中国知的財産権の取得に対する影響

Category: 中科の動向 Time: 2015-02-11

 

     第3回改正後の中国特許法に関する解説及び日本企業の中国知的財産権の取得に対する影響

中科専利商標代理有限責任公司 
汪恵民、張立岩

    世界に注目された第3回改正された中国特許法(以下、「改正法」という)は2009年10月1日に施行され、その後、2010年2月1日に改正後の特許法実施細則及び訂正後の審査指南(以下、「改正法細則」と「訂正審査指南」という)は施行され、これによって中国の第3回特許法改正に関する全ての仕事が完成された。この第3回特許法の改正に伴い中国最高人民法院(日本の最高裁判所に相当する)審査委員会が2009年12月21日に第1480回会議にて「最高人民法院の特許権侵害紛争事件の審理に適用される法律に関する若干の問題への解釈」(以下、「若干問題の解釈」という)を通過させて公布し、2010年1月1日に施行した。中国では、最高人民法院の司法解釈は法律と同等の効力を有するものであり、また、司法解釈は法律の規定を具体的に詳細化し、的確に運用できるようにした、司法審理の判定実践における裁判の根拠でもある。したがって、「若干問題の解釈」の登場は極めて大な注目をあびている。
特許制度の中心は特許法及びその他の相関法律法規の制定であるが、特許制度の有効性判断において主な着目点は司法実践における特許権に対する保護度合である。中国の第3回特許法の改正は、特許制度の国際化とハーモナイズするように、中国の特許制度をさらに完備し、特許法に対して比較的大きいな改正を行った。それと同時に「若干問題の解釈」が司法裁判の立場からこの数年来熟した裁判経験を纏めて明確し、多くの裁判原則を提出した。これによって、改正法と「若干問題の解釈」が共に中国の特許審査実践及び司法裁判実践に対して深遠な影響を及ぼすことは間違いない。本文は改正法の主な改正部分及び「若干問題の解釈」の新たな規定に対して簡潔に解説し、且つ、これらの改正と変化によって日本企業の中国知的財産権(特許実務)への影響及び今後の対策について意見を述べる。本文を通して中国の特許審査実践及び司法裁判実践の変化が一層明らかになり、極積的な対応ができるように、今後の中国出願において御活用頂ければ幸いである。

一、改正法の主な改正内容
中国の第3回特許法の改正は第1回、2回特許法(以下、「旧法」という)の改正と比べて、改正内容が多く、前例がない。改正法の主な改正は次の内容含む。
1. 遺伝資源の発明創造に関する規定の追加;
2. 重複授権(ダブルパテント)禁止に関する規定の調整;
3. 外国への特許出願及び秘密保持審査;
4. 渉外特許代理機構の廃止;
5. 特許権付与される条件の厳格化;
6. 不特許事由規定の追加;
7. 意匠特許に関する新しい規定;
8. 特許権保護の強化;
9. 特許技術実施の促進と強制実施許諾規定の完備;
10.職務発明の発明者?考案者及び創作者に対する奨励と報酬金額の増額;
11.特許権侵害例外状況の追加。
上記の項目の順に従って、下記のように詳しく解説する。

1.遺伝資源の発明創造に関する規定の追加
    生物技術の発展とともに、遺伝資源は国家持続的発展ができる重要な資源になっており、世界各国が重視している。中国は世界で遺伝資源の豊富な国の中の一つであり、1993年で有効になった国際「生物多様性条約」を最も早く許可した国の中の一つである。中国の遺伝資源を有効的に保護するために、その他の国の関連する経験を参考した上に、中国の具体的な事情を考慮して、改正法に新たに第5条第2項「国の法律、社会の公徳に違反し、又は公共の利益を害する発明創造に対し、特許権を付与しない。」を追加した。
また、改正法第26条第5項に遺伝資源の直接的な出所の開示を要求する内容を新たに追加した。即ち、「遺伝資源に依存して完成された発明創造については、出願人は特許出願書類においてその遺伝資源の直接的な出所及び根源的な出所を説明しなければならない。出願人が根源的な出所を説明できない場合、その理由を陳述しなければならない」と規定した。この規定と上記の改正法第5条第2項の規定とを合わせて、特許制度と遺伝資源取得及び利用の管理制度とを合わせることにより、よりよく遺伝資源を保護し、「生物多様性条約」の規定実行ができることを目的とする。
2.重複授権(ダブルパテント)禁止に関する規定の調整
重複授権を禁ずる制度は特許制度の一つ重要な原則である。世界中の多くの国の特許法には重複授権を禁ずる規定がある。その多くの国の特許法と異なり、中国特許法は、発明創造の定義に、発明、考案及び意匠の三種類を纏めて一つの法律で取り扱っているが、重複授権禁止に関する規定においては、同一の発明創造に対する発明特許と実用新案特許双方の出願をした場合にのみ、重複授権の可能性を考慮していた。
旧法では、重複授権を禁止することは、「重複授権の禁止(ダブルパテントの禁止)とは同一の発明創造には2つ又は2つ以上の有効特許権が同時に存在してはならない」ことを指す(最高人民法院の行政判決書(2007)行提字第4号)。重複授権を禁止するために、旧法の第9条に以下の通り規定されている。即ち、「二以上の出願人が同一の発明創造について個別に特許出願した場合、特許権は最先の出願人に付与される。」と規定した。つまり、先願主義である。上記の規定は同時に異なる出願人の重複授権の問題も解決してきた。同一の出願人が同一の発明創造についてそれぞれ二つの出願を提出した場合、旧法実施細則第13条に以下の通り規定されていた。
(1)同一の発明創造には一つの特許のみが付与される。
(2)二以上の出願人が同日に、同一の発明創造についてそれぞれ特許を出願した場合は、国務院特許行政部門(「中国特許庁」のことである。以下、単に「特許庁」という)の通知を受領した後、協議し、出願人を確定しなければならない。
また、同一の出願人が同一の発明創造についてそれぞれ二つの出願を提出した場合に対して、例えば、実用新案と発明特許に対してどのように重複授権を防止するかについて中国特許庁に制定された審査指南(2006年版)の第二部分第三章6.2.1節に2件の特許出願に対する処理についてさらに規定されていた。
上記の審査指南の規定によれば、出願人が既に権利付与された特許権の放棄(例えば、実用新案特許権を放棄する)を選択することの代わりに審査中の特許に対する権利(例えば、発明特許権)を取得できるが、既に権利付与されている特許は当該特許の出願日から放棄されたとされるので、放棄される特許権のその有効であった期間内に生じた法律事実に対してどのように処理するかについてもう一つの課題が残っていた。
重複授権禁止原則に関して、改正法は旧法実施細則第13条第1項の内容及び審査指南における一つの特許出願と一つの特許権に対する処理を新しい条文として現行法に加えた。改正法第9条の規定は下記のとおりである。
①同一の発明創造には1つの特許権のみが付与される。ただし、同一の出願人が同日に同一の発明創造について、実用新案特許出願と発明特許出願の双方を提出した場合、先に取得した実用新案特許権が未だ終止しておらず、且つ出願人は当該実用新案特許権を放棄する旨を声明した場合、発明特許権を付与することができる。 また、改正法実施細則第41条に新たに第5項を追加し、「実用新案特許権は、発明特許権の授与を公告した日に終了する」こととした。
②二以上の出願人が同一の発明創造について個別に特許出願した場合、特許権は最先の出願人に付与される。
したがって、改正法の旧法に対する法律効力の変化は以下の通りである。
(1)改正法第9条は、特許制度の基本原則である重複授権禁止の規定を追加した。これによって改正法は、重複授権禁止に関し、簡潔且つ完備されたことになった。
(2)同一出願人が、同日に、同一の発明創造について、実用新案特許と発明特許の出願を提出した場合にのみ、一つの例外として、先に権利付与されている実用新案特許権の放棄を選択できることになるので、従来のような同一の発明創造の異日出願における実用新案特許権の放棄と発明特許権の取得にまつわる保護期間の実質的な延長がなくなることになった。
(3)また、改正特許実施細則第41条第5項によれば、実用新案特許権の放棄は発明特許権の付与公告日から有効とされることから、旧審査指南の“出願日から実用新案特許権が放棄されたと見なされる”ことから生じる法律問題の発生が避けられた。
また、同一の出願人の、同一の発明創造についての実用新案特許と発明特許の異日出願に対する処理について改正法は新しい解決方法を与えた。即ち、改正法第22条第2項によって行うこととされた。
(4)改正法第22条は特許権付与の実質的要件(新規性、進歩性及び実用性)に関する規定であるが、同条第2項は新規性要件に関する規定である。即ち、同条同項には、「新規性とは、当該発明又は実用新案が現有技術に属さず、また如何なる単位又は個人も同一の発明又は実用新案を出願日前に特許庁に出願しておらず、且つ出願日以後に公開された特許出願書類又は公告された特許書類中に記載されていないことをいう」と定められた。
改正法では、抵触出願の対象を、「他人」から「如何なる単位又は個人」に拡大し、単に抵触出願の範囲を拡大したのみならず、同一出願人が、同一の発明創造について、前後に実用新案特許と発明特許の双方を出願する場合を除いた。これによって重複授権を有効に防止することができるようにした。
また、訂正した審査指南が、旧審査指南の第二部分第三章第6節の(同一の発明創造についての処理)に「特許権の重複付与を禁止するとは、同一の発明創造が複数の有効状態にある特許権が同時に存在できないことをいう」内容を削除した。これは明らかに上記の最高人民法院の行政判決書の観点と一致していない。
3.外国への特許出願及び秘密保持審査
外国への特許出願に関する規定について、改正法第20条に対して重要な改正を行っており、秘密保持審査の内容を新たに追加した。主な改正が改正法第20条の第1項と新たに追加した第4項である。
改正法第20条第1項が次のとおり改正された。「いかなる単位又は個人が、中国で完成させた発明又は実用新案を外国に特許出願する場合、事前に申告して国務院専利行政部門による秘密保持審査を経なければならない。秘密保持審査のプロセス、期限等は国務院の規定に従って執行する。」
中国特許庁の秘密保持審査について、改正法実施細則第8条、第9条に規定された。即ち、
(1)秘密保持審査請求は3つの方式がある(第8条)
* 中国出願せず、外国へ出願する場合は、中国特許庁に秘密保持審査請求を提出し、且つその技術構想を詳細に説明する;
* 中国特許庁に特許出願をする同時に又は特許出願をした後で秘密保持審査請求を提出する;
* 中国特許庁に特許国際出願を提出した場合、秘密保持審査の請求を同時に提出したものとみなす。
(2)秘密保持審査期限(第9条)
* 出願人がその請求を提出した日から4ヶ月以内に秘密保持審査通知を受領しなかった場合、出願人は許可をもらったものとみなす;
* 出願人がその秘密保持審査請求を提出した日から6ヶ月以内に秘密保持を必要とする決定を受領しなかった場合、出願人は許可をもらったものとみなす。
また、改正法第20条に追加された第4項に「本条第1項の規定に違反して外国に特許出願した発明又は実用新案に対して、中国において特許出願する場合、特許権を付与しない。」と規定した。この第4項は罰則である。即ち、如何なる単位又は個人も、中国で完成させた発明又は実用新案を外国に特許出願する場合、事前に国務院専利行政部門へ申告し秘密保持審査請求をしなければ、その結果、当該発明又は実用新案を中国において特許出願した場合、特許権を付与しない。
4.渉外特許代理機構の廃止
改正法第19条と第20条における渉外特許代理機構に関する内容が削除された。渉外特許代理機構に関する規定は、中国で特許制度が始まった初期に中国の特別情況に適合させるために制定された合理でないが合法的な過度性のものである。特許制度が中国で深く浸透することに伴い、渉外特許代理機構は特許制度の発展には活用されないので、近年以来中国で渉外特許代理機構制度を廃止する要望がますます高まっている。第3回法改正によって渉外特許代理機構制度が廃止される。改正法が実施された現状では、全て中国の特許代理機構(渉外特許代理事務所)が外国の特許代理事務所と同様になり国内と外国の特許事務の業務を代理することができる。渉外特許代理機構制度が廃止された後、出願人又は委託人は特許代理機構を広く選択することができ、これによって、各特許代理機構のサービス品質アップ及び公平的競争を促進することができる。また、改正法第20条第1項の規定では渉外特許代理機構に関する内容が削除されたことだけではなく、外国に特許出願するときに必ず中国の特許代理機構に委任する制限も削除された。これによって、国際事務のよく分かる専門的人材を有する大手企業に対して、必要に応じて中国の国内特許代理機構に委任するかどうかについて決定できる。こうすれば、コストの削減ができ、出願人にとって特許の外国出願することに便利になる。
5.特許権付与される条件の厳格化
改正法第22条、第23条は発明、実用新案及び意匠に対する特許要件(特許要件とは、新規性、進歩性及び実用性を指す)の条文であり、上記の条文に「従来技術」と「従来意匠」の概念を引用し、従来技術と従来意匠の地域制限を削除したので、発明、実用新案及び意匠に対する特許権を付与される条件が厳しくなった。具体的な改正点を下記に記載する。
  従来技術とは、出願日前に国内外において公衆に知られている技術を指す(改正法第22条第5項)。
従来意匠とは、出願日前に国内外において公衆に知られている意匠を指す(改正法第23条第4項)。
また、改正法は新規性判断の抵触出願の範囲を拡大した。
(1)発明と実用新案特許出願に対して
「いかなる単位又は個人も同一の発明又は実用新案について、出願日前に国務院専利行政部門に出願したことがなく、かつ出願日以後に公開された特許権出願書類又は公告された特許書類に記載されていないこと」(改正法第22条第2項後半部分)。
(2)意匠特許出願に対して
「いかなる単位又は個人も、同一の意匠について出願日前に国務院専利行政部門に出願したことがなく、かつ出願日以後に公告された意匠出願書類に記載されていないもの」(改正法第23条第1項後半部分)。
改正法第23条に、意匠特許出願に対する進歩性判断要件として新たに第2項を追加した。即ち、「特許権を付与する意匠は、従来意匠と比べ、又は従来意匠の特徴の組合せと比べて明らかな区別を有するものをいう。」とした。上記の進歩性に関する条文にはTRIPS協定に採用した意匠に対する権利付与基準を導入した。つまり、「加盟国は,意匠が既知の意匠又は既知の意匠の主要な要素の組合せと著しく異なるものでない場合には,当該意匠を新規性又は独創性のある意匠でないも
のとすることを定めることができる。」の条文である。
6.不特許事由規定の追加
改正法は旧法に3つの特許権付与しない規定を追加した。
(1)国の法律、社会の公徳に違反し、又は公共の利益を害する発明創造に対
し、特許権を付与しない(改正法第5条第2項)。
(2)秘密保持審査を通らず外国に特許出願した発明又は実用新案に対して、
中国において特許出願した場合、特許権を付与しない(改正法第20条第4項)。
(3)不特許事由の拡大
改正法第25条に意匠特許権付与しない規定に新たに第(六)号を追加した。即
ち、「平面印刷物の図案、色彩又は二者の結合によって作り出された主に標識の作
用を有するデザイン」を権利付与しない。
どのような意匠が、改正法第25条1項6号に規定の「意匠権を付与しない平面印刷物の設計」に該当するのか。審査指南の第一部分第三章の意匠出願の形式審査6.2節に明示されている。
つまり、もし一件の意匠出願が以下の3つの条件を同時に満たしている場合、当該出願が特許法第25条1項(六)号に規定の意匠特許権を付与しない場合に該当する。
(1)意匠にかかる製品が平面印刷物品である。
(2)当該意匠が模様、色彩又は両者の結合に対するものである。
(3)当該意匠が主に標識作用を果たしている。
7.意匠特許に関する新しい規定
中国第3回改正特許法に改正の内容が最も多いのは意匠に関するものである。
上記に説明した条文以外に、次の内容も含む。
① 簡単な説明は必要な出願書類になった;
② 単一性条件の拡大;
③ 簡単な説明は、図面又は写真に示されたその製品の意匠特許に対する解
釈に用いることができる。
(1)意匠の必要な出願書類
改正法第27条第1項に「意匠特許を出願する場合、願書、当該意匠の図面又は写真及び当該意匠の簡単な説明等の書類を提出しなければならない。」を規定している。即ち、意匠特許出願書類として、
? 願書
? 当該意匠の図面又は写真
? 当該意匠の簡単な説明
改正法実施細則第28条及び訂正した審査指南第一部分第三章4.3節にさらに
意匠の簡単な説明に含まれる内容を明確した。
(2)単一性条件の範囲
改正法の第31条第2項に新たに「同一製品の二つ以上の類似する意匠は、一件の出願として出願することができる。」の規定を追加した。
中国特許法では日本意匠法第10条の関連意匠に関する規定がない。つまり、中国で日本意匠法第10条の規定を満たす多項の関連意匠出願を提出することができない。改正法の第31条第2項は単一性条件を拡大し、同一製品の二つ以上の類似する意匠は、一件の出願として出願することができることになった。これは出願人に対してかなり便利なことである。旧法の第23条に基づいて意匠特許出願に関し、二つの意匠が「類似」であるかどうかについての判断は人為的な要素が多いともいえるので、二つの意匠が「類似」であるか「類似」でないかについて確定し難い。旧法に基づけば、二つの意匠をそれぞれ出願するか(費用はかかるが、保護は確実となる)、または、どちらか一つを選択して出願するか(費用はおさえられるが、保護の確実性が保証されない)のいずれかを選ばなければならない。改正法の単一性に対する改正によれば、法改正後は、出願人は類似する意匠を一件の出願として提出することができることとなった(費用はおさえられるが、保護も確実となる)。
また、改正法実施細則第28条第2項にも「同一物品に対する複数の類似意匠を
一件の意匠特許出願にて提出する場合、簡単な説明において、その中の一つを基本デザインとして指定しなければならない。」を明確に規定している。且つ、改正法実施細則第35条第1項後半部分に、一件の意匠特許出願中の類似意匠は10件を超えてはならないことを規定している。
したがって、日本の意匠出願人は日本の意匠法第10条を満たす関連意匠を、中国で1件の意匠出願として提出し、そのうちの「本意匠」を中国の併合出願の「基本意匠」とする。
(3)簡単な説明は図面又は写真に示されたその製品の意匠特許の解釈に用いられる。
改正法では「簡単な説明」は意匠特許出願の必須書類としているため、出願人は出願時に、当該簡単な説明を願書と図面又は写真と一緒に提出することが要求されている。更に、当該意匠権の保護範囲を確定するとき、簡単な説明は、図面又は写真に示されたその製品の意匠特許の解釈に用いられる(改正法第59条第2項)。このことから、簡単な説明によって、図面又は写真だけでは示すことができない内容を表すことができる点は、発明若しくは実用新案の明細書の作用がある。つまり、意匠の簡単な説明は、意匠製品の図面又は写真に対する説明又は限定になるので、当該簡単な説明が、意匠製品の色彩、特徴、用途、創作要点などを明確にすることができると同時に、その意匠権に対しての限定要素となり、一定程度その保護範囲を縮小させる可能性も持ちあわせていることに、出願人は注意すべきである。
8.特許権保護の強化
改正法と旧法を比べて、多くの条文において特許権保護強化の条項を追加した。主な改正は下記のとおりである。
(1)意匠権利者の権利を拡大した。即ち、他人の販売の申出が禁止される(改正法第11条第2項)こととした。
(2)特許権侵害の損害賠償額の算定方法を規定した。権利者の損失、侵害者の得た利益及び特許実施許諾料の倍数を基準(改正法第65条第1項前半部分)とした。
(3)賠償金額には権利者が権利侵害行為を制止するために支払った合理的な支出も含まれる。(改正法第65条第1項後半部分)こととした。
(4)賠償金額の倍数を高めった。権利者の損失、侵害者の得た利益及び特許実施許諾料のいずれも確定することが困難な場合は、特許権の種類、権利侵害行為の性質と状況などの要素に基づき、1万人民元以上100万人民元以下の賠償を確定することができる(改正法第65条第2項)こととした。
(5)特許を詐称した場合は、違法所得の4倍以下の罰金を科すことができる。違法所得がない場合、20万元以下の罰金を科すことができる。犯罪を構成する場合、法により刑事責任を追及できる(改正法第63条)こととした。
(6)特許権侵害行為を制止するため、証拠が滅失又は後に取得が困難となるおそれのある場合、特許権者又は利害関係人は提訴前に人民法院に証拠保全を申請することができる(改正法第67条第1項)こととした。
(7)行政執法における調査と証拠取得の手段を強化した。即ち、改正法第64条第1項に次のとおり規定している。特許業務管理部門は、特許詐称に嫌疑のある行為を取り締まるとき、関係当事者を尋問し、違法性の嫌疑のある行為に関する情況を調査することができる。当事者と違法性の嫌疑のある行為の場所について現場検証を行い、違法性の嫌疑のある行為に関する契約書、領収書、帳簿及びその他の関連資料を閲覧、複製することができる。違法性の嫌疑のある行為に関係する製品を検査し、特許を詐称した製品に対して、封印し又は差し押さえを行うことができる。
(8)特許権評価報告書の完備
旧法第57条第2項は、次のように規定していた。特許侵害紛争が実用新案特許にかかる場合、人民法院又は特許業務管理部門は、特許権者に国務院専利行政部門が作成したサーチリポートの提出を要求することができる。しかし、サーチリポートの提出は特許権者の義務ではない。また、サーチリポートは特許庁から出された分析と審査のない書類であるので、法律地位の弱いものである。改正法第61条第2項では元の規定が改正され、「サーチリポート」を「分析及び評価を行った上、作成した特許権評価報告書」に改正し、その同時に、
? 意匠特許権に対する評価報告書を追加した;
? 特許権評価報告書の法律地位が「特許権侵害紛争を審理し、処分するための証拠」であることを明確にした。
したがって、特許権評価報告書の主な役割は、案件を受理する法院又は行政機関が関連特許権の有効性を判断するときに使われ、被疑侵害者から提起した無効審判請求することで進行している関連手続きを中止する根拠になるかどうかを決めることである。しかし、特許権評価報告書は行政の決定ではなく、特許権有効性に対する正式的な判断でもなく、ただの特許庁から出された、実用新案権と意匠権の有効性についての証拠であり、特許権が有効かどうかは最終的に無効審判手続きを通して確定する。
9.特許技術実施の促進と強制実施許諾規定の完備
発明創造の価値はその実施と応用である。特許制度創立の立法目的の一つは発明創造の活用を促進することと、合法的に特許を実施するためにできるだけよい条件を与えることである。改正法は特許技術の実施に対して、下記の改正を行った。
(1)契約で約定がない場合、共有者は単独で実施できること、又は他人に対して実施を許諾することができる。ただし、他人に当該特許の実施を許諾する場合、取得した実施料は共有者間で分配しなければならない(改正法第15条第1項)ことを明確した。
(2)従来技術又は従来意匠の実施は特許権侵害にならないことを明確した。即ち、「特許権侵害紛争において、被疑侵害人がその実施した技術又は意匠が従来技術又は従来意匠であることを証明する証拠を有している場合、特許権の侵害を構成しない。」と規定した(改正法第62条)。
「従来技術の抗弁」は、特許制度を実施する各国の特許権侵害訴訟において、被疑侵害人が非侵害の抗弁の一つ通常の手法である。中国の関連司法解釈にも従来技術の抗弁又は従来意匠の抗弁に関する規定が書かれている。これを一つの法律の規定として特許法に導入したことは中国の改正法の一つの試みであるが、改正法にこのような抗弁の制度を導入しても被疑侵害者が裁判上で主張しなければ裁判官はこの抗弁を認定することができない。訴訟において、被疑侵害人が抗弁の主張をするとともに、抗弁の主張を支持する証拠も提供しなければならない。
したがって、従来技術の抗弁又は従来意匠抗弁手法を特許法に導入することによっては、この司法裁判実践に占める法的意味を変えることができない。
また、改正法がTRIPS協定の関連規定を参照し、強制実施許諾の規定を完備し、強制実施許諾に関する下記の内容を追加した。
(1)充分に実施していないことに対する強制実施許諾
改正法第48条第(一)号に「権利付与された日から満三年の間、かつ特許出願日から満四年の間、特許権者が正当な理由なくその特許を実施せず、又は実施が不十分である場合、特許を実施する強制許諾を与えることができる。」を規定した。
(2)独占行為に対する強制実施許諾
改正法第48条第(二)号に「特許権者の権利行使した行為が法により独占的行為であると認められ、当該行為の競争に対して生じた不利な影響を取り除き又は減少させる場合、特許を実施する強制許諾を与えることができる。」を規定した。
(3)改正法第50条に「公共の健康を目的として、特許権を取得した薬品に対し、国務院専利行政部門はその製品の製造及びそれを中華人民共和国の加盟する関係国際条約の規定に符合する国家及び地域に輸出するための強制許諾を与えることができる。」を規定した。
(4)公共利益に対する強制許諾
改正法第52条に「強制許諾にかかる発明創造が半導体の技術に関わる場合、その実施については、公共利益の目的に限られる場合」強制許諾を与えることができることを規定した。
(5)改正法第53条に、強制許諾の実施は主に国内市場に供給することを目的とする場合、強制許諾を与えることができることを規定した。
10.職務発明の発明者?考案者及び創作者に対する奨励と報酬金額の増額
職務発明の発明者?考案者及び創作者に対する奨励と報酬に関する改正法の第16条は旧条項に対して改正していなかったが、改正法実施細則は上記の奨励と報酬について下記の改正点を明確した。
(1)特許権付与された単位は、報奨及び報酬の支給方式及び額について、発明者?考案者又は創作者と約定若しくは法に従って制定した規則の中に規定することができる(改正法実施細則第76条)。
(2)特許権を授与された単位(法人等)が、報奨の支給方式及び額を、発明者?考案者又は創作者と約定していない場合、且つ法に従って制定した規則の中に規定していない場合、一件の発明特許の最低奨励金は、少なくとも3,000元、一件の実用新案特許又は意匠特許の最低奨励金は少なくとも1,000元とする(改正法実施細則第77条第1項)。
(3)特許権を授与された単位が、報酬の支給方式及び額を、発明者?考案者又は創作者と約定していない場合、且つ法に従って制定した規則の中に規定していない場合、特許権の有効期間内に、発明創造特許を実施した後、毎年、当該発明又は実用新案特許の実施の営業利益から2%以上、又は当該意匠特許の実施の営業利益の0.2%以上を取り出し、発明者?考案者又は創作者に報酬として与え、又は、上記の比率を参照して、発明者又は創作者に報酬を一括して与えなければならない。特許権を授与された単位は、その他の単位又は個人にその特許の実施を許諾した場合、取得した使用料の10%以上を取り出し、報酬として発明者又は創作者に与えなければならない(改正法実施細則第78条)。
11.特許権侵害例外状況の追加
(1)並行輸入行為の許可
改正法第69条は権利用尽の原則に関する規定を完備し、並行輸入行為を許すことになった。この条の第(一)号に「特許製品又は特許方法によって直接得られる製品について、特許権者又は特許権者の許諾を得た単位或いは個人が販売した後、当該製品を使用、販売の申し出、販売、輸入する場合」特許権侵害と見なさないことを規定している。
(2)薬品又は医療器械実験の例外許可
Bolar例外は最も早く米国で生まれた一つの特許制度であり、且つ国際紛争の裁決においてもBolar例外の採用はTRIPS協定の規定を違反していないと認められている。改正法第69条第(五)号にこのような制度を導入し「行政審査に必要な情報を提供するために、特許薬品又は特許医療器械を製造、使用、輸入した場合、及び専らそのために特許薬品又は特許医療器械を製造、輸入する場合」特許権侵害と見なさないことを規定している。
改正法は上記の条項を追加したことは、日本特許法の関連法律規定と一致している。

二、司法解釈より提出した新しい規定
最高人民法院は、司法解釈が立法主旨に一致することを保障し、中国の国家事情に合せ、イノベーションを奨励するために、特許裁判実践における基本的、普遍的な法律適用の問題を考慮し、数年来熟している特許審理の経験則を明確にし、纏めて新しく「特許侵害紛争案件の審理に法律を適用する問題に関する若干の問題の解釈」を提出した。
当該司法解釈は全部で20条あり、今現在、特許権侵害審理における主な法律適用問題について、(1)発明、実用新案特許権の保護範囲の確定及び権利侵害判定の原則;(2)意匠特許権の侵害判定の原則;(3)従来技術の抗弁及び先使用権の適用;(4)非侵害確認の訴訟の受理などを含む。最高人民法院より出された司法解釈は中国の判定実践の裁判根拠であるため、この新しい司法解釈が2010年1月1日から施行された後、中国の司法実践至る審査実践には多大な影響を起こすであろう。司法解釈と旧司法解釈との異なるところは主に下記の内容を含む。
1.機能的クレームの解釈に関する規定
「発明又は実用新案特許権の保護範囲は、その権利請求の範囲の内容を基準とし、明細書及び図面は権利請求の内容の解釈に用いることができる。」(改正法第59条第1項)。即ち、中国では、折中解釈の原則を採用して保護範囲を確定する。中国特許法及び司法解釈には、クレームに機能的構成要件を含む場合、その機能的クレームの保護範囲をどのように解釈するかについて明確に規定していない。特許法の規定から見れば、中国では比較的広い範囲の機能的構成要件を含むクレームの保護が認められるように見える。
中国の特許審査の観点から見れば、特許出願の請求の範囲は特許法第26条第4項に規定を満たさなければならない。即ち、「請求の範囲は、明細書に基づき、明瞭、簡潔に特許の保護を求める範囲を限定しなければならない。」としている。そのうちの「請求の範囲は、明細書に基づき」とは、クレームは明細書に裏付けられなければならないことを指す。クレームが明細書に裏付けられるための条件として訂正した審査指南第二部分第二章3.2.1節にはさらに詳しく規定されている。
一般的には、物のクレームに対しては、できるだけ機能又は効果的構成要件で発明を特定することを避けなければならない。技術的構成を構造的要件で特定することはできない場合又は技術的構成が構造的要件で特定されるよりも機能又は効果的要件で限定されるほうが適当であり、且つその機能又は効果的要件が明細書に規定された試験又は操作或いは当該技術分野の慣用手法から直接間違いなく検証できる場合にだけ、機能又は効果的要件で発明を限定することが認められる。
中国の審査実践において、審査官は特許法第26条第4項に規定された「特許請求の範囲は、明細書に基づかなければならない」ことについて厳しく要求している。機能的限定に属する可能性のある構成要件に対しては、明細書における具体的実施方式に記載された実施形態と同等又は均等な程度に全て補正することが要求される。日本を含む多くの外国出願人がこのような審査方式に対して困惑を感じており、中国で出願した機能的クレームがファミリパテントの日本、ヨーロッパ、アメリカで権利付与可能であるのに、中国でどうして認められないかの疑問となっている。
筆者は日本及びアメリカなどの司法実践は中国の司法実践と異なると考えている。日本及びアメリカなどの国では特許審査において、機能的構成要件について明細書の記載に基づいて実施できれば、機能的構成要件から構造的構成要件に補正する必要がなく、特許権が付与される。権利侵害紛争処理の審判実践において、通常、機能的構成要件は明細書における実施形態及びその均等の実施形態を参酌して侵害を構成するかどうかを判断するので、これによって、特許審査は比較的し易くなると思われる。
司法解釈「若干問題の解釈」の中に、機能的構成要件に対する解釈について全く新しい規定を提出した。即ち、第4条では「クレームの中に機能又は効果で記述された構成要件に対しては、人民法院は明細書と図面の記述する当該機能或いは効果の具体的実施形態及びその均等の実施形態を参酌して、当該構成要件の内容を確定しなければならない」と規定している。上記の規定により多くの先進国家の司法審判実践と次第に一致していくであろうと思う。したがって、この第4条は中国の判定実践において大きな影響を及ぼすだけでなく、中国の審査実践にも一定の影響を与えるであろう。これから、審判実践において具体的にどのようにこの規定が運用されるか注目される。
2.余計指定原則(不完全利用)の廃止
余計指定の原則は、出願人が請求の範囲を作成ミスによる損害を最小限にするための立法が特許権者に与える救済の一つである。このようなミスが発明創造のそのものの進歩性と関係なく、権利侵害判定においてこのような余計指定の構成要件を排除しても社会公衆の利益に対して影響を与えず、特許権利者に合理的な保護を提供することができる。
余計指定の原則は多くの国の司法実践にも採用されていた。この原則は「若干の問題の解釈」が施行される前に中国の司法実践にも適用されていた。当然のことだが、社会公衆利益に損害をもたらすことを避けるために余計指定の原則の認定は司法実践において非常に慎重にかつ厳格に取り扱われてきた。
しかし、最高人民法院は下記のことを考慮して、中国の司法実践において余計指定の原則の適用を廃止した。即ち、クレームの役割は特許権の保護範囲の確定である。つまり、発明又は実用新案を構成する技術的構成が全ての構成要件を含むことを公衆に表明することにより、公衆にはどのような行為が特許権の侵害にならないかが明らかになる。クレームに記載された全ての構成要件を全面的に、充分に尊重すれば、社会公衆がクレームの内容について変動を予測できず、どうしたらよいか分からないことは生じない。これによって、法律的権利の安定を保障することができる。
「若干の問題の解釈」の第7条第1項は「人民法院は、提訴された物件に係る技術的構成が特許権の保護範囲に入るかどうかを判定する時、特許権者が主張するクレームに記載される全ての構成要件を審理しなければならない」と規定している。上記の「クレームに記載される全ての構成要件」の意味は実質的に余計指定の原則を否定したものである。
3.部品の権利侵害行為について
中国の裁判実践において、「若干の問題の解釈」が初めて部品の権利侵害行為及び賠償確認の原則と方法について明確に規定された。
「若干の問題の解釈」の第12条に、発明又は実用新案特許権侵害した製品が部品である場合に他の製品の部品を製造する場合、人民法院は特許法第11条に規定された使用行為に属することを認定しなければならない。当該他の製品を販売する場合、人民法院は特許法第11条に規定された販売行為に属することを認定しなければならない。
意匠特許権を侵害した製品が部品である場合に、別の製品の部品を製造かつ販売する場合、人民法院は特許法第11条に規定された販売行為に属することを認定しなければならない。但し、意匠特許権を侵害した製品が当該別の製品において技術的機能のみを有する場合は除かれる。
上記の前記2項の規定の場合に対して、被疑権利侵害者の間に分担を決めて協力し合うことがあった場合、人民法院は共同権利侵害になると認定しなければならない。
「若干の問題の解釈」の第13条に、「特許方法によって得られた一次的(オリジナル)製品に対して、人民法院は特許法第11条に定めた特許方法によって直接得られた製品であると認定しなければならない」と規定した。
上記の一次的製品をさらに加工処理して、後続製品が得られる行為に対して、人民法院は特許法第11条に規定された特許方法によって直接得られた製品に属すると認定しなければならない。
「若干の問題の解釈」の第16条第2項、3項は下記に示す(第1項を省略)。第2項
発明、実用新案特許権を侵害している製品が他の製品の部品である場合、人民法院は、当該部品自身の価値及びその部品が完成品の利益における役割などの要因に基づき合理的に賠償額を確定しなければならない。
第3項
意匠特許権を侵害する製品が包装物である場合、人民法院は、包装物自身の価値及び包装された製品の利益における役割などの要因に基づき合理的に賠償額を確定しなければならない。
司法実践において、部品が一つの製品であると、それが権利侵害になっているかどうかを判断するのは比較的に容易であり、且つ権利侵害の部品を用いて別の製品を製造する行為は侵害行為に属することにも論争がない。しかし、上記の侵害行為の賠償金額が合理的であるかどうかについて確定するときに、司法実践において常に各要因により正確的な判断に影響を与える。最高人民法院は部品に対する侵害行為及び賠償金額の確定に関する規定は中国裁判実践にさらに明確な根拠を提供した。
4、警告書と権利の非侵害確認訴訟
中国訴訟制度においては、被疑侵害製品が市場に進入することを食い止めるように、又は侵害行為が発生しないように、特許権利者は被疑侵害者へ警告書を出すことができる。特許権者が出した警告書によりもたらされた結果について法律責任を負わない場合、被疑侵害者が警告書を受け取った後に実質的な影響がないと認識するとき、黙ってほうっておく対策を採用する場合が多い。しかし、警告書により被疑侵害者の生産又は経営に対して影響を受ける場合、被疑侵害者が、受動的な立場になる可能性があり、権利者が訴訟を提起するかどうかについて予測できないし、また、自分が侵害になっているかどうかを確定できない状態になる。上記の特許権紛争案件を対応するために、最高人民法院は初めて「特許権の非侵害の確認制度」を司法解釈の中に明確な規定を置いた。
当該規定における第18条に「権利者は他人に対して権利権侵害に関する警告を発し、警告を受けた者又は利害関係人が書面を以って権利者に訴権の行使を催告した場合、権利者は当該書面による催告を受取ってから一ヵ月以内に或いは当該書面の催告を発送した日から二ヶ月以内に、警告の撤回もせず、訴訟の提起もしない場合、被警告人又は利害関係人が、それの行為について、特許権の非侵害確認訴訟を提起した場合、人民法院は受理しなければならない」を規定している。
上記の規定に基づいて、被警告者又は利害関係者が人民法院に特許権の非侵害確認を請求する前提条件は下記のとおりである。
(1)被警告者の義務:警告者に提訴催促の手紙を出すこと;
(2)訴訟の期限:権利者が当該書面催促を受け取った日から1ヶ月以内に、又は該書面催促を出してから2ヶ月以内;
(3)訴訟前提:警告者が警告を取り下げないし訴訟も提起しない;
(4)訴訟内容:自分の行為が特許権を侵害していないことの確認を請求する;
(5)民事訴訟法第108条の規定を満たす(起訴条件)。
最高人民法院は上記の「特許権の非侵害確認」の司法解釈の規定を作成したため、特許権者は、自分が受動的な立場にならないように、被疑侵害者へ警告する前に出そうとする前に警告後の発生可能な結果を充分に考えなければならず、また、権利侵害訴訟を提起する準備をしなければならない。

三、改正法より日本企業の中国知的財産権戦略に対する影響と今後の対策
本文の第一部分で改正法の主な改正内容を紹介し、第二部分で司法解釈の新しい規定を紹介した。これらより、中国第3回特許法の改正の目的は中国特許法を国際的にハーモナイズさせることである。
ここでは「改正法より日本企業の中国知的財産権戦略に対する影響と今後の対策」について、改正法の内容に基づいて、実務の観点から日本企業がこのような変化に対して今後どのような対策を取ればよいかを検討したい。主に次の四点を重点に検討する。
1.秘密保持審査;2.重複授権禁止に関する規定の調整;3.職務発明の発明者?考案者及び創作者に対する奨励と報酬;4.特許権侵害に対する救済。
1.秘密保持審査について
中国で独資又は合併会社を設けた日本の企業の中で、中国で完成した発明創造を中国で特許出願する時の秘密保持審査に関する規定に対して大いに関心を持っており、秘密保持審査のため時間がかかって、その発明創造の外国への出願に影響が出ることを心配している。また、これらの子会社で生まれた多くの発明創造は中国で特許権を取得する必要があるので、改正法第20条第4項に記載の状況(中国において特許出願する場合、特許権を付与しないこと)が生じることを避けなければならない。
そのため、出願人は(日本の本社でも中国の子会社でも)改正法実施細則第8条に記載した方法を採用したほうがよいと思われる。即ち、①中国特許庁に出願すると同時に秘密保持審査請求をする;②国際出願をする。このようにすれば秘密保持審査を順調に受けることができる。
中国特許庁で実際に行う秘密保持審査のプロセスは次のとおりである。出願人により提出された秘密保持審査の請求を受理した後、審査を通じて、特許受理通知書とともに秘密保持審査の必要の是非が通知される。出願人は秘密保持審査がさらに必要がある旨の通知を受け取っても、特許庁は秘密保持の必要が是非の決定を2ヶ月以内に下せる。これによって、出願人は余裕をもってその発明創造を外国へ特許出願をする準備ができると考えられる。
2.重複授権禁止に関する規定の調整について
第3回改正法は旧法の内容に対して多くの改正を行ったが、発明特許と実用新案特許の2種類特許について、特許の新規性の公知公用要件の地域制限を削除すること(国際基準にした)と、抵触出願の拡大を採用すること以外に、実質的な変化はないので、日本の出願人は、改正法における発明と実用新案特許の規定に対して理解し易い。
重複授権禁止に関する規定については、同一の発明創造に対する処理方法と、発明特許と実用新案を同時に出願する方法に影響を与える。
また、中国では実用新案に対しては方式審査制を採用している。即ち、実用新案出願に対して方式審査が行われ、拒絶理由が発見されない場合、中国特許庁から実用新案特許権の付与を決定する(改正法第40条)。実用新案特許に対する進歩性の要求が低いため、無効審判請求に対しても、多くの実用新案特許権は比較的安定している。また、実用新案に対する方式審査期間は短く(出願してから6-12月)出願の費用も低いので、出願人は中国の実用新案制度を利用して、さらに有効的に発明創造を保護することが可能である。これは、中国での実用新案出願の数が日本での実用新案出願の数よりかなり多いことが理由である。特に、一件の発明創造を中国でそれぞれ発明特許出願と実用新案特許出願をすれば、先に権利付与された実用新案特許権を充分に活用でき、その後発明特許出願の審査を通じて発明特許の権利が付与される際に、実用新案特許権を放棄する選択をすれば、発明創造に対してさらに有効的に保護することができる。
改正法が抵触出願の拡大の条項を採用し、同一出願人の先願が後願の抵触出願になる。したがって、外国出願人が中国で同一発明創造に対してそれぞれ発明特許と実用新案特許を出願する場合、下記の二点を注意しなければならない。
(1)中国で同一発明創造に対して同日にそれぞれ発明特許出願と実用新案出願を提出する;
(2)出願人は、先に権利付与された実用新案特許権の有効性を保持し、それによって、後に審査される発明特許出願が権利付与される条件を有する場合、出願人が実用新案特許権を放棄することにより、発明特許出願の権利が付与される。もし先に権利付与された実用新案特許権を喪失すれば(原因にかかわらず)、出願人が発明特許権の選択の可能性がなく、権利付与されなくなる。
3.職務発明の発明者?考案者及び創作者に対する奨励と報酬
第3回特許法改正において、職務発明の発明者?考案者及び創作者に対する奨励と報酬の規定については変わっていない(即ち、改正法第16条と旧法第16条が同じである)が、改正法第16条に関連する改正法実施細則が、旧法実施細則と比べて変更がある。改正点は
(1)契約で奨励と報酬を約定する;
(2)約定していない場合、また合理的でない場合は統一基準が適用される;
(3)職務発明の特許権者(単位)として、すべての中国法人地位のある単位を含む。
中国特許制度が1985年4月1日より特許法(及び実施細則)を実施以来、中国国情に合わせ、職務発明創造の発明者の積極性を促進するため、法律で比較的恵まれる奨励と報酬を保障している。この基本的な方針は第1~3回特許法改正において変わっていない。日本を含む外国の企業は、中国特許法によって職務発明創造の発明者?考案者及び創作者に高額奨励を与えること、特に報酬について異なる意見を持っており、且つこのような法律規定によって中国で経営している企業の発展に影響を与える心配がある。実際には、中国は一つの法制社会として、中国にある企業(外資又は個人を含む)は自らの企業の実情に応じて規定規則を制定し、企業が激しい競争の市場環境での生存と発展を保障することが可能である。企業として注意しなければならないことは、改正法実施細則と旧実施細則に対して下記の2点の改正がある。
(1)奨励と報酬について、契約によって(規則制度を含む)約定すること;
(2)上記の契約を合法的に制定する。
企業の経営者は上記の2点を注意すれば職務発明の発明者?考案者及び創作者への奨励と報酬による紛争が生じることはないであろう。中国特許法によって、発明創造権利帰属及び管理に関わる多くの条文は、上記の状況と類似しており、企業は権利帰属の順位に注意しなければならない。つまり、
(1)契約(又は約定)が優先、即ち、契約がある場合その約定に従う
(2)契約(又は約定)がない場合、発明者が優先
の順になる。したがって、日本企業は中国においても、契約によって職務発明規定を確立すべきであると考える。
4.特許権侵害に対する救済
中国特許法に規定された特許権侵害紛争の救済について、(1)行政救済方法と(2)司法救済方法の二つを含む。行政救済方法で特許権侵害紛争を解決するのは中国特許制度の一つ特徴である。
(1)行政救済方法
行政救済方法とは、特許に関する事情(特許権侵害を含む)について紛争が生じる場合、当事者が特許業務管理部門を通して紛争を調停する方法を指す。
中国特許法における「特許業務管理部門」とは、中国の省、自治区、直轄市の所在地に設けたその地区内の特許管理業務を行う行政機能のある単位を指す。特許管理業務とは、特許業務の管理と行政執法を含む。中国の特許業務管理部門は行政執法機能を持っており、中国特許制度の一つの特徴である。中国の国情により、且つ特許業務管理部門が紛争案件に対する審理と決定は人民法院より迅速で、費用も安いことにより、中国各地の特許業務管理部門が行政執法において大量な案件を処理した。各地の特許業務管理部門の2008年の行政執法受理案件は下記のとおりである。
? 特許侵害案件:1092件
? その他の特許紛争案件:34件
? 他人の特許を詐称した案件:660件
しかし、行政救済方法には限度があり、行政処分又は調停結果に対して不服である場合は人民法院に訴訟を提起することができる。
(2)司法救済方法
司法救済方法とは、特許に関する事情(特許権侵害を含む)について紛争が生じた場合、当事者が法院の裁判を通して紛争を解決することを指す。司法救済方法で特許権侵害を解決する方法は世界各国で採用されている最も有効な方法であり、中国でも特許権侵害が起こった際には司法救済方法での解決が最終的な解決方法である。
(3)救済方法の選択
外国の特許権者に対して、特許権侵害紛争が生じる場合に、司法救済方法で解決するのが一般的な考え方である。しかし、中国で特許業務管理部門が設けられているため、当事者が行政訴訟によって紛争を解決することが可能なため、特許権者にとって、行政救済と司法救済の二つの方法をどのように選択するかが問題となる。特許権者の選択を行う基本的考え方は下記のとおりである。
? 特許権侵害の規模が小さく(特に被疑侵害企業は小さい会社である)、特許権者の主な目的が早急に侵害行為を停止させ、侵害賠償金を要求しない場合、行政救済方法を利用することが考えられる。
? 特許権侵害の規模が大きく(特に被疑侵害企業は大きい会社である)、特許権者が侵害行為を停止させるとともに賠償も求める場合、司法救済方法のみが使用できる。
要するに、特許権侵害紛争を解決する最も有効的な方法は日本と同じ司法救済方法を使用することである。即ち、人民法院へ訴訟を提起し、裁判官の判決によって解決することである。特に特許権者が権利侵害訴訟において、損害賠償を請求する場合、司法ルートのみが可能で、行政ルートは利用できない。特許権侵害紛争が複雑なので、日本の特許権利者が権利侵害紛争に遭う時は、信頼できる弁護士、弁理士と相談してから権利侵害紛争に対する具体的な解決方法を決定することが望ましい。
以上、2009年10月1日から施行される中国特許法第3回改正法について、特
に外国出願人に関わる主な改正点と中国知的財産権の取得に対する影響について解説させていただきました。言葉足らずの箇所など、お気づきの点があれば、ご指摘いただきますようお願い申し上げます。